睡眠時無呼吸症候群

睡眠時無呼吸症候群と循環器病─ そのいびきが危ない!

睡眠時無呼吸症候群は、文字通り寝ている間に何回も呼吸が止まる病気です。英語では Sleep Apnea Syndrome といって、頭文字をとって SAS(サスと読みます)と呼ばれています。

睡眠 中、平均して1時間に5回以上、それぞれ 10 秒以上呼吸が止まる場合は、この症候群の可能性が あります。

この症候群は単に呼吸が止まるだけの病気ではありません。心臓、脳、血管に負担をかけるので す。実は、睡眠時無呼吸症候群があるだけで高血圧症、脳卒中、狭心症、心筋梗塞など循環器病を 合併する危険が高まることがわかっています。

無呼吸回数が多くなるにつれて、つまり重症になれ ばなるほど、そのリスクは高くなります。しかし、一方で、この症候群の治療をきちんと受けると、長生きできる可能性があることもわかっ ています。

いびきは無呼吸の前兆です。そのため、いびきは睡眠時無呼吸症候群の患者さんの多くに認められ ます。しかしこの症候群はいびき以外には自覚症状が出にくい病気です。昼間の眠気を自覚される 方もいますが、それは半数程度で、なかなか自分だけではわかりにくい病気なのです。

周りの人から寝ている時のいびきや無呼吸を指摘されている方は、ぜひ専門医療機関を受診してく ださい。そして、周りでいびきがひどい方や寝ている間に呼吸がしばしば止まる方がいたら、ぜひ 受診を勧めてあげてください。

睡眠時無呼吸症候群の頻度は

テキスト

この症候群の患者さんは、どれくらいいる のでしょうか。「閉塞性」は世界的に有病 率が高いことがわかっています。30~60 歳を対象とした有名な米国の研究による と、無呼吸・低呼吸指数が5以上の睡眠呼 吸障害の患者さんの割合は男性 24%、女性 9%で、うち症状がある睡眠時無呼症候群 の割合は男性4%、女性2%であったと報告されています。

わが国では大規模な調査はなく、正確な「閉塞性」の有病率は明らかではありませんが、一般住民 910 人を対象とした調査では、無呼吸・低呼吸指数が 10 以上の「閉塞性」は男性 3.3%、女性 0.5%(全体で 1.7%)という報告があります。

単純に計算すると、日本での患者数は約 200 万~300 万人ということになりますが、実際はもっ と多いのではないかと考えられています。正確に診断されている人が少ないことが問題視されてお り、治療の対象となる睡眠時無呼吸症候群の 80~90%がはっきり診断されていないと言われています。

この症候群が起こるメカニズム

テキスト

右図を見ていただきながら話を進めます。「閉塞性」はどのようにして起こるのでしょうか。私たちはふつう寝る時は仰向けの時間が長いと思います。

仰向けで寝ている時は重力の影響もあり、舌が下方(喉の奥 の方向に)に少し落ち込みます(舌根沈下)。

特に問題がなければその程度の舌の動きで気道が閉 塞してしまうことはありません。

しかし、舌の周りに脂肪などの余分な組織が付着しているか、もしくはもともと気道自体が狭い人 などでは、仰向けで寝た場合、そうした舌の下方への動きによって気道が狭くなり、極端な場合は 気道を完全に塞いでしまうのです。これが「閉塞性」の正体です。

ですから、肥満の方で頸部に脂 肪が多く付着しているような場合は「閉塞性」を引き起こす可能性が高くなります。
しかし、リスクがあるのは肥満の方だけではありません。アジア、特に日本を含めた東アジアの人 はあごが小さく、もともと気道が狭い人が多いとされており、肥満がなくても「閉塞性」が生じや すいと考えられているのです。

いびきは狭くなった気道を何とか空気が通過した時に発する音で、いわば気道が狭くなっているこ とを知らせる重要なサインです。肥満がなくても、いびきをよくかく方は「閉塞性」を疑ってみる 必要があります。

一方、「中枢性」は脳の呼吸中枢から信号が送られないことによって生じる無呼吸です。「閉塞 性」と違って上気道の状態に問題はありません。つまり、純粋な「中枢性」の患者さんはいびきを かきません。

「中枢性」がどのような仕組みで起こるのか、まだ十分に解明されていない部分が多いのですが、 脳にある呼吸の司令塔の機能異常などが原因として考えられています。

どのように診断するの?

福岡市の香椎にある当院では、この症候群が疑われた場合、まず「簡易型睡眠モニター」と呼ばれる装置で疑わしい人をふるいに かける検査を行います。この装置で測定するのは、主に鼻や口での気流、血液中の酸素濃度(動脈 血酸素飽和度: SpO2)です。

この装置は貸し出し可能で、自宅でも検査ができるので、外来で 行うスクリーニング検査として普及しています。

どうやって治療するの?

閉塞性の場合

減量(肥満のある場合)、持続陽圧呼吸療法(CPAP 療法)(注4)、口腔内装置(OA)(注 5)、手術などで治療します。また、生活習慣の改善(横向きに寝る、禁酒、睡眠薬の禁止、鼻疾 患の治療)でよくなることもあります。

通常、まず飲酒制限や、睡眠薬使用の制限を指導し、肥満者には減量を示します。これらによって 重症度をある程度下げることが可能で、軽症の患者さんでは無呼吸がほぼ正常域まで改善する場合 があります。

しかし、こうした生活習慣の改善だけでは十分な改善が得られない場合は、口腔内装置や持続陽圧 呼吸療法(CPAP 療法)、もしくは耳鼻科的手術が必要となります。

口腔内装置はマウスピース療法とも呼ばれ、下あごが少し前方に出るようなマウスピースを作製 し、これを夜間装着して寝てもらう治療法です。下あごが前方に移動する分、気道が広くなるの で、軽症~中等症の「閉塞性」なら改善が期待できます。

CPAP 療法(シーパップと呼んでいます)は、簡単に言えば、気道に空気の圧力(陽圧)を持続的 にかけることによって、舌の根元が沈み込んで気道を閉塞するのを予防する治療です〈図4〉。

このため、夜間は専用のマスクをして寝てもらいます。設定された一定の圧力の空気がマスクを通 して送られてくるのです。それほど強い圧力ではないので、慣れてしまえばふつうに眠ることがで きます。

(注4)CPAP療法のCPAPはcontinuous positive airway pressureの略

(注5)口腔内装置 OA は oral appliance の略

わが国の保険診療では、無呼吸・低呼吸指数が 20 以上の「閉塞性」の場合、この療法の対象とな っています。CPAP 療法は、無呼吸を減らすだけでなく、降圧(高血圧の改善)、不整脈の減少、 交感神経の働きの抑制、インスリンが効きにくい状態を改善(糖尿病の改善)などの効果があり、 心筋梗塞・狭心症や脳卒中など循環器病の発症を抑え、この症候群の経過をよくすることがわかっ ています〈図5〉。

上気道の閉塞部分がはっきりわかっているときは、上気道を拡大する手術が行われる場合もありま す。軽症~中等症には効果があると考えられていますが、必ずしも無呼吸が完全に回復するわけで はなく、また手術ということもあり、CPAP 療法やマウスピース療法ほど行われていないのが現状です。

欧米や日本国内でもっとも普及している治療方法「Continuous Positive Airway Pressure」の頭文字をとって、「CPAP(シーパッ プ)療法:経鼻的持続陽圧呼吸療法」と呼ばれます。 閉塞性睡眠時無呼吸タイプに有効な治療方法として現在欧米や日本国内で最も普及し ている治療方法です。

CPAP 療法の原理は、寝ている間の無呼吸を防ぐために気道に空気を送り続けて気道 を開存させておくというもの。CPAP 装置からエアチューブを伝い、鼻に装着したマスクから気道へと空気が送り込 まれます。

「鼻にマスクをつけて空気が送られてくる状況で眠れるものなのか?」と思われるか も知れませんが、医療機関で適切に設定された機器を使い、鼻マスクを正しく装着で きているかどうかが重要なポイントです。

治療は毎日のことなので、使い方でわからないことがあればコツをつかめるようになるまで主治医や医療機 関のスタッフに相談してみると良いでしょう。

中枢性の場合

重要なのは、まず原因の一つと考えられる、心不全などの循環器病の治療をきちんとすることで す。こうした循環器病に対する適切な治療により、症状は改善してきます。それでも「中枢性」の 症状が残ってしまう場合には「中枢性」自体に対する特別な治療を行います。

法、もしくは CPAP 療法などの陽圧呼吸療法があります。

予防や対策はできるの?

生活習慣を改善することによって、「閉塞性」の方は予防することが可能です。肥満が原因 の場合、予防は肥満にならないことに尽きます。過度の飲酒も避けてください。泥酔するこ とで気道周囲の筋肉の緊張状態が過度に失われてしまい、睡眠時無呼吸症候群の原因 になります。

喫煙も気道に炎症を起こし、結果的に気道がむくんでしまう(浮腫)ので、この症候群の原 因にもなります。ですから、禁煙は予防を考えるうえで大切です。まとめていえば、循環器 病の予防自体が、睡眠時無呼吸症候群の予防にもなるのです。

最後に

ちょっと前までは、睡眠時無呼吸は病気だとは考えられていませんでした。いびきをかい ていたと思ったら急に呼吸が止まって、しばらくしたらまた大きないびきをかき始める、何と も騒々しくて迷惑な人ぐらいにしか思われていませんでした。ところが、現在は医学的には っきりした病気、しかも循環器病と深く関わる病気と捉えられています。

考えてみれば、長い人生のうち、約3分の1の時間は寝ているのです。最近ようやく睡眠 の重要性が指摘されてきましたが、私たちはこれまで以上に、この人生の3分の1の送り 方に注意を払うべきなのです。

睡眠時無呼吸症候群は、私たちが眠っている間に着々と循環器病の下地をつくっている のです。繰り返します。周りの人から寝ている時のいびきや無呼吸を指摘されている方 は、専門医療機関を受診してください。周りでいびきがひどい方や寝ている間に呼吸が止 まっている方がいたら、ぜひ受診を勧めてあげてください。それが循環器病予防のための 重要なステップになるのです。

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